作品情報
簡単な解説
原題は『His House』。彼の家とでも訳すべきでしょうか。
獣の住む家という邦題も悪くありませんが、シンプルな原題も悪くないですね。
見終えた後だと意味もわかりますし。
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制作陣・キャスト
主演のソープ・ディリスさんは『スノーホワイト/氷の王国』や『砂の城』に出演しているナイジェリア人の両親を親に持つ実力派俳優です。
助演のウンミ・モサクは『このサイテーな世界の終わり』や『ロキ』といったTVドラマを中心に出演しているナイジェリア生まれの方です。
監督のレミ・ウィークスは『フライト・バイツ』内の『Tickle Monster』と言った短編作品などを中心に撮られていた方で、長編作品はどうやらこの『獣の住む家』が初めてのようです。
あらすじ(結末までのネタバレ有り)
南スーダンから逃れ、イギリスへとたどり着いたボルとリヤルの夫婦。彼ら二人は道中の洋上で娘のニャガクを失っていた。
英国にたどり着いた二人は、偏見の目に晒されながらも保護観察下の亡命が認められ、英国へ『馴染む』事を条件に家を充てがわれる。
薄汚れ、朽ち掛けた家で、隣人や周囲の偏見に合いながらもボルは生活や習慣を変えて英国に同化しようとする。
しかし、彼らは夜に死んだはずのニャガクや見知らぬ男といった幻影を見、恐怖体験をする事となり、それに業を煮やしたボルは壁の中に何かが潜んでいると考えて壁紙を剥がし、壁を打ち壊していく…
一方、彼にリヤルは語る。この怪奇は『アペス』と呼ばれる呪われた存在のせいであり、かつて村の貧しい者がアペスから物を盗んで家を建てたが、アペスは彼の者の壁の中に住み着いたという伝説である。さらに彼女は、アペスに盗んだ物を返せば娘が戻ってくるとボルに語る。
当然そんな事を信じようとしないボルではあるが、どうにか家をなんとかしようとケースワーカーの元へと赴き、嘘をついて新しい家を用意してもらおうとするも、説得は失敗に終わり、ケースワーカー達がボルの家を訪れてしまう事態を引き起こす事に。
凄惨な状態となったボルの家を見て唖然とするケースワーカー達に、リヤルはこの家に掛けられた呪いの事を語る。当然信じられる事なく、唖然としながら去っていくケースワーカー達。
強制送還の危機が迫り、それを拒絶しようとするボルと故郷に帰ろうとするリヤル。彼女は英国に馴染む事が出来なかったのだ。
仲違いし、リヤルを監禁した後にアペスを召喚するボル。アペスは彼を泥棒と呼んだ後、彼の命とニャガクとの取引を持ちかける。
一方、なんとか窓から脱出したリヤルが見たのは、ありえない筈の光景……故郷の南スーダンであった。
そこで引き起こされた虐殺と、生き延びるためにニャガクを攫い、娘と偽って子どもたちを運ぶ人道支援バスに乗り込んだ過去を直視させられる。
場面はボルの元へと戻り、彼は過去に行った行いを恥じ、アペスの取引を受け入れる。
彼の命を奪おうとするアペスだったが、リヤルがその喉を切り裂き、ボルを救った。
数日後、ケースワーカーが再びボル達の家に立ち寄る。
そこで彼らが見た物は、修繕された壁にすっかりと落ち着いた二人。リヤルはケースワーカーに自分たちを悩ませていた魔女を殺したと告げる。
また、ボルは穏やかな表情をしたニャガクを始めとする南スーダンの亡霊たちが二人の家いっぱいに佇んでいる中で、彼の家の戸口にリヤルと立つ。
彼らは亡霊たちと共に生きていく事を決めたのだ。
感想(ネタバレあり)
ショッキングな物ではない、ジワジワとした恐怖
じっとりとした恐怖に襲われるホラー作品でした。
イギリス社会の異物である二人に対して向けられる偏見の目、奇異な隣人達、そして二人の過去のトラウマをえぐる亡霊達の行動。
それらによって病んでいく夫婦の怪演は必見です。
怖いのは人間?
ホラー作品であり、びっくりするような恐怖シーンも散りばめられてはいますが、その脇を固めるのは夫婦に偏見の目を向ける人々。
やる気の無い入国管理局に、あからさまにからかいの色を見せる少年たち。ケースワーカー達が二人の言動に困惑しつつも歩み寄ろうとしているのが救いでしょうか。
『獣』の正体とは
恐怖の正体として怪物が現れるシーンはやや興ざめですが、その時点で既に怪物の存在は既にあまり関係ない状態となっています。
なぜなら、タイトルにある『獣』とは、ボルとリヤル二人である事が示唆されているからです。
Jホラーの影響があるような?
アフリカの現状、そして難民問題というタイムリーの題材を下敷きにしたホラー作品ではありますが、恐怖表現などはJホラーに近い感じを受けました。
家という箱を題材にし、真綿で首を絞められるように夫婦が霊達と現実に追い込まれていく中盤までは既視感を受けるほど。
ですが、所々で発生するフラッシュバックシーン等にやはり違いが現れます。生々しいまでの過去、そして深い社会との断絶。似ている部分はありますが、やはり別物です。
心打たれるラスト
心打たれたのは何よりもラストシーン。
霊達と共に生きていく事を選択する、それも暗いものではない。この独特の感性をとても愛おしく思いました。これだけで観てよかったと思えるほどの作品でした。
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